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神戸地方裁判所 昭和54年(ワ)1036号 判決

原告

勝山武保

被告

山内興業株式会社

主文

一  被告は、原告に対し、金一、一一八、四四五円及びその内金一、〇一八、四四五円に対する昭和五三年一〇月一〇日から、内金一〇〇、〇〇〇円に対する本判決確定の日の翌日から、いずれも支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを九分し、その二を被告の負担とし、その七を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金四、九四七、一〇六円及びその内金四、四四七、一〇六円に対しては昭和五三年一〇月一〇日から、内金五〇〇、〇〇〇円に対しては本判決確定の日の翌日からいずれも完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1(一)  昭和五三年一〇月九日午後七時四〇分頃、神戸市東灘区森北町一丁目六番六号所在の山手幹線路上において、訴外山内雅弘運転の普通乗用自動車(神戸五五つ九五三九)(以下「加害車両」という。)が訴外藤池光男運転の普通乗用自動車(神戸五五め五九七八)(以下「被害車両」という。)の後部に追突した(以下「本件事故」という)。

(二)  右山内雅弘運転の加害車両は、被告が所有し、その運行の用に供するものである。

(三)  原告は、被害車両に同乗していたが、本件事故により、頭部打撲及び頸部捻挫の傷害を受けた。

2  原告は、本件事故により、次の損害を蒙つた(但し、被告によつて填補された分を除く。)。

(一) 未払治療費等 小計一一九、九三〇円

(1) 国立明石病院 金五、四一〇円

(2) 明舞中央病院 金九八、七二〇円

(3) 榎本治療院 金五、〇〇〇円

(4) 原医院 金一〇、八〇〇円

(二) 診断書料等 小計一六、九四五円

(1) 国立明石病院 金二、四一〇円

(2) 明舞中央病院 金九、〇〇〇円

(3) 原医院 金四、〇〇〇円

(4) 交通事故証明書料等 金一、五三五円

(三) 入院雑費 金二四、五〇〇円

三五日(入院日数、昭和五三年一〇月一三日から同年一一月一六日まで)×七〇〇円(入院雑費日額)=二四、五〇〇円

(四) 近親者入院付添費 金二七、〇〇〇円

九日(付添日数)×三、〇〇〇円(付添日額)=二七、〇〇〇円

(五) 入・通院交通費 小計金八七、五七〇円

(1) 国立明石病院交通費

(ア) 原告入院時交通費 金一、三三〇円

(イ) 近親者付添交通費 金九、八四〇円

(2) 明舞中央病院通院交通費

(ア) バス(四〇日) 金八、〇〇〇円

(イ) タクシー(二日) 金二、三四〇円

(3) 原医院通院交通費 金六六、〇六〇円

七、三四〇円(山陽電鉄一六〇円、国鉄五、八〇〇円タクシー一、三八〇円)×九(通院回数)=六六、〇六〇円

(六) 休業損害 小計金七一四、二一〇円

(1) 昭和五四年五月分給与 金一七〇、〇〇〇円

(2) 同年六月分給与 金一七〇、〇〇〇円

(3) 同年七月分給与差額 金八三、二一四円

但し、一七〇、〇〇〇円-八六、七八六円(原告が実際に振込支給をうけた金額)=八三、二一四円

(4) 同年夏季償与分差額 金二九〇、九九六円

三五〇、〇〇〇円-五九、〇〇四円(原告に実際に支給された金額)=二九〇、九九六円

(七) 傷害による慰藉料 金一、二五〇、七〇〇円

(但し、東京地裁昭和四九年三月発表の入、通院慰藉料表の一・三倍を基準にして)

入院三五日(昭和五三年一〇月一三日から同年一一月一六日まで)

通院二五九日(昭和五三年一一月一七日から昭和五四年八月二日まで)

(八) 後遺症による慰藉料 金一、六七二、〇〇〇円

但し、自賠責後遺障害等級第一二級第一二号該当保険金額の八割)

(九) 後遺症による逸失利益 金一、五八四、二五一円

(六一八、七〇〇円〈昭和五三年七、八、九月分給与の合算額〉×四+七〇〇、〇〇〇円〈賞与分〉)×三・五六四三(四年間のホフマン系数)×〇・一四(労働能力喪失率)=一、五八四、二五一円

3  弁護士費用 金五〇〇、〇〇〇円

4  よつて、原告は、被告に対し、本件事故によつて原告が蒙つた損害金五、四九七、一〇六円から雑費名目で被告より受領ずみの金三〇〇、〇〇〇円及び自賠責保険より給付ずみの金七三〇、〇〇〇円を控除した残額金四、四四七、一〇六円と本訴提起に要する弁護士費用金五〇〇、〇〇〇円の合算額である金四、九四七、一〇六円及びこのうち損害金残額については本件事故の翌日である昭和五三年一〇月一〇日から、弁護士費用については本判決確定の日の翌日から、いずれも完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否

1(一)  請求の原因第1項(一)の事実は認める。

(二)  同項(二)の事実のうち、被告が加害車両を所有していることは認めるが、被告が自己のため運行の用に供していたことは否認する。訴外山内雅弘は、本件事故当日、加害車両を被告に無断で持ち出し、甲南大学の通学に供していたものであつて、本件事故は、その帰途において発生したものである。

(三)  同項(三)の事実は認める。

2(一)  請求の原因第2項(一)の事実中、(1)、(2)は認める。(3)、(4)については、原告が主張の治療費を要したことは認めるが、右は過剰・重複診療であつて本件事故と相当因果関係のあるものではない。

(二)  同項(二)の事実中、(1)、(2)及び(4)のうち金一五〇〇円は認めるが、(3)及び(4)の手数料三五円は否認する(被告は原告主張のうち金一五、九一〇円を認める旨述べる部分もあるが、被告の弁論の全趣旨によれば、右のとおり認否したものと認むべきである。)。

(三)  同項(三)の事実は認める。

(四)  同項(四)の事実は否認する。

(五)  同項(五)の事実は否認する。

(六)  同項(六)の事実は否認する。

(七)  同項(七)の慰藉料額は、金三六〇、〇〇〇円が相当である。

(八)  同項(八)の事実は否認する。

(九)  同項(九)の事実は否認する。

3  請求の原因第3項の事実は知らない。

三  抗弁

1  過失相殺

(一) 訴外藤池光雄は、加害車両の進行を認識しつつ、山手幹線の南辻から右折して山手幹線に進入したものであるところ、事故現場付近で同乗者訴外尾崎義宣を降ろすべく停車しようとしたが、右地点で停車しようとする場合、右のとおり後続車の認識があつたのであるから、東向き道路のうち北側車線に寄り、かつ左寄りの方向指示器を出して後続車への合図をしながら停止すべきところ、漫然、のろのろ運転しながら南寄りを運転していた過失があり、そのため加害車両に追突されたものである。

(二) 原告は、訴外藤池光雄運転の加害車両にかなり継続的に無償同乗していたものであり、右無償同乗は、単なる便乗型同乗でなく常用型同乗の類型に入るものである。そして、本件においては、事故・損害の前提となる危険性をふくんだ生活行動ないし場を選択した者の一種の危険負担としての責任分配を考えるべきであるから、原告の損害算定に当たり、右藤池の過失を斟酌すべきである。

2  弁済等

被告は、原告の蒙つた損害に対して、すでに左の通り金一、四四三、九七五円を支払つた。

(一) 昭和五三年一〇月一七日、宮地病院に対し治療費金六、四八〇円を支払つた。

(二) 同年一一月一七日、休業損害として、金一六八、四二五円を、また、入院雑費名目で金一五〇、〇〇〇円をそれぞれ支払つた。

(三) 同年一一月二五日、国立明石病院に対し、金二九六、二八〇円を支払つた。

(四) 同年一二月八日、宮地病院に対し、文書料として金三、〇〇〇円を支払つた。

(五) 同年一二月一八日、一二月給与分及び賞与不足分として金二五〇、〇〇〇円を、また雑費名目で金一〇〇、〇〇〇円を支払つた。

(六) 同年一二月二九日、国立明石病院に対して金九、七九〇円を支払つた。

(七) 昭和五四年二月五日、休業損害として、金七〇、〇〇〇円を支払つた。

(八) 同年三月五日、通院雑費名目で金一〇〇、〇〇〇円を支払つた。

(九) 同年四月一四日、休業損害として、金七〇、〇〇〇円を支払つた。

(一〇) 同年四月二六日、明舞中央病院に対して、治療費金五〇、〇〇〇円を支払つた。

(一一) 同年五月一一日、休業損害として、金一七〇、〇〇〇円を支払つた。

3  原告は、自賠責保険より金七五〇、〇〇〇円を給付されている。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁第1項の事実はすべて否認する。

2  抗弁第2項の事実は、本訴請求権の弁済に関係しないものであるが、雑費名目で金三〇〇、〇〇〇円受領したことは認める。

3  抗弁第3項の事実は認める。

第三証拠〔略〕

理由

一  事故の発生及び原告の受傷

請求原因1(一)(三)の事実は、当事者間に争いがない。

二  被告の責任

被告が本件加害車両を所有していたことは、当事者間に争いがない。そうすると、他に特段の事情の認められない限り、被告が自己のため加害車両を運行の用に供していたものと推認すべきところ、被告は、訴外山内雅弘が加害車両を無断私用運転したものであるとして被告の運行供用者性を争うが、被告の指摘するような事情を窺うべき証拠はないから、被告は加害車両を自己のため運行の用に供していたものと認むべきである。他に右認定を覆すに足る証拠はない。

したがつて、被告は、本件事故によつて原告に生じた損害を賠償すべき責任がある。

三  原告の治療経過等

いずれも成立に争いのない甲第二、第八、第九、第一一号証及び原告本人尋問の結果によると、原告が次のとおり治療を受けたことが認められ、これに反する証拠はない。

1  本件事故直後、宮地病院で応急の診察を受け、次いで昭和五三年一〇月一一日に三愛病院でX線検査を受けたところ、頸椎亜脱臼と診断されて入院を勧められた。

2  そこで、原告の自宅に近い国立明石病院に昭和五三年一〇月一三日から同年一一月一六日まで三五日間入院した。(この点は、当事者間に争いがない。)。

3  次いで、同年一一月一七日から昭和五四年八月二日まで(二五九日)のうち四二日間、明石市内の明舞中央病院に通院した。

4  右明舞中央病院通院中の昭和五四年三月六日から同年六月一三日までの間、岡山県倉敷市の原医院に八日間通院した。

5  また、その間の昭和五四年四月九日(一回)に明石市内の榎本治療院に赴いて治療を受けた。

四  損害

1  治療費

(一)  請求原因2(一)(1)(2)の事実は、当事者間に争いがない。

(二)  原告が同(3)(4)の治療費を要したことは、当事者間に争いがないが、被告は、右榎本治療院及び原医院における治療について、過剰・重複治療であるとして本件事故との相当因果関係を争つているので、検討する。

原告本人尋問の結果によると、原告は、前記のとおり昭和五三年一一月一七日から明舞中央病院に転院して治療を受けていたが、昭和五四年三月頃に至つてもなお頭痛があり、手が自由に動かず、熱もあつたりしていたところ、会社の同僚に紹介されて前記のとおり岡山県倉敷市の原医院に昭和五四年三月六日から同年六月一三日までの間九日通院して患部(頸部)に注射をする等の治療を受けたこと、また、その間同年四月九日には、症状が改善されなかつたので、妻の友人から勧められ、前記のとおり明石市内の榎本治療院に一回通つたこと、が認められ、また、原告本人尋問の結果によると、この間、原告は昭和五四年一月及び二月は一定日数勤務したが、同年三月から六月下旬まで欠勤していることが認められ、この頃の病状が決して軽くはなかつたことが窺えるし、原医院及び榎本治療院への通院は通院日数もさして多くないことを考慮すると、一方でこれらの通院が明舞病院通院中のものであることや榎本治療院は医院でなく医師の指示があつたとも認め難いという事情はあるけれども、なお治療の必要性及び相当性を認めることができ、本件事故との間の相当因果関係を肯認すべきである。

(三)  そうすると、治療費の合計は、原告主張のとおり金一一九、九三〇円である。

2  診断書料等

(一)  請求原因(二)(1)(2)の事実は、当事者間に争いがない。

(二)  同(二)(3)の原医院における証明書料金四、〇〇〇円についてみるのに、成立に争いのない甲第六号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告が診断書料として原医院に金一、〇〇〇円を支払つたことが認められ、かつ前記のとおり原医院における治療も本件事故と相当因果関係があると認められるから、右診断書料金一、〇〇〇円についても因果関係を肯定すべきである。

しかし、その余の金三、〇〇〇円については、これを認めるに足る証拠がない。

(三)  同(二)(4)の交通事故証明書料等金一、五三五円のうち金一、五〇〇円については当事者間に争いがない。成立に争いのない甲第七号証の一及び原告本人尋問の結果によると、原告が交通自動車安全センター兵庫県事務所から事故証明書の交付を受け、その代金を郵便振替払込の方法で支払つた際、その手数料金三五円をあわせて支払つたことが認められ、右は右証明書の交付に付随して必要なものであるから、本件事故と相当因果関係にあるものというべきである。

(四)  以上診断書料等の合計は、金一三、九四五円となる。

3  入院雑費

請求原因2(三)の事実は当事者間に争いがないから、本件事故による原告の損害として入院雑費金二四、五〇〇円を認めることができる。

4  付添費

成立に争いのない乙第一七号証の四ないし六(看護記録)及び原告本人尋問の結果によると、原告は国立明石病院入院中、昭和五三年一一月頃約一週間発熱し、その間原告の妻が付き添つたこと、入院当初の二日位も付き添い、その他は二日に一回位付添ないし見舞をしたことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない(原告本人の供述では発熱の時期が乙第一七号証の記載とややずれているが、原告の記憶違いと思われる。)。

そこで、右付添の必要性についてみるに、成立に争いのない乙第一二号証(診断書)によると、医師は付添看護を要せずと判断していることが明らかであるが、その具体的な理由は付されておらず、また、原告の傷害は頸部捻挫であるから、一般的には付添看護の必要性は少いといえようが、前認定の発熱期間についてみると、前掲乙第一七号証の四ないし六による限り、原告は三八度以上の発熱が続いたことが明らかであるから、右発熱期間七日間については付添看護の必要性を肯定すべきである。他は必要性を認めることができない。

付添費用の額は一日当り金三、〇〇〇円とするのが相当であるから、合計金二一、〇〇〇円と算出される。

5  交通費

(一)  国立明石病院

原告本人尋問の結果によると、入院の際原告がタクシーを利用したことが認められ、一般に入院の際には寝具、日用品等を運び込む必要もあるから、タクシーの利用が必要と考えられるところ、その金額を明らかに示す証拠はないが、弁論の全趣旨により原告主張の金一、三三〇円を要したと認められる。

近親者付添交通費については、前述のとおり一時期妻の付添が必要であつたことは認められるけれども、その交通費の金額を示す証拠がなく、原告の主張額のうちから右付添必要期間分を特定することができないので、結局近親者付添費としてはこれを認めることができない。

(二)  明舞中央病院交通費

原告本人尋問の結果によると、同病院への通院四二回のうち二回は痛みがひどかつたのでタクシーを利用し、その他はバス(片道一〇〇円)を用いたことが認められ、タクシーの代金額を示す証拠はないが、弁論の全趣旨によると原告の主張金額を相当として認めることができる。

(三)  原医院分

原告本人尋問の結果によると、原医院への通院のため、原告主張のとおり交通費を要したことが認められる。

(四)  以上の通院等による交通費は、合計金七七、七三〇円である。

6  休業損害

(一)  いずれも成立に争いのない甲第一〇号証、乙第九号証の一、同第一九号証の三ないし六及び原告本人尋問の結果によると、

(1) 原告は、本件事故当時DXアンテナ株式会社に勤務し、本件事故前の昭和五三年八月ないし九月に一か月当り実支給額金一六八、四五二円の給与の支給を受けており、また昭和五三年七月の賞与として金二七八、七二〇円の支給を受けたこと、

(2) 昭和五四年五月分(四月一一日から五月一〇日まで)は、出勤〇、欠勤二三日で、給与支給がなく、

(3) 同年六月分(五月一一日から六月一〇日まで)も、出勤〇、欠勤二六で、給与支給がなかつたこと、

(4) 同年七月分(六月一一日から七月一〇日まで)は、出勤一〇、欠勤一四で、欠勤控除として金八七、五八四円(振込支給額金八六七八六円)の減給を受けたこと、

(5) 昭和五四年七月分賞与の支給を受けたが、欠勤控除金二八九、六七〇円のため金五九、〇〇四円しか支給を受けなかつたこと、

がそれぞれ認められ、これに反する証拠はない。

したがつて、右期間の休業損害は合計金七一四、一五八円と算出される。

(二)  ところで、右休業による損害と本件事故との相当因果関係の有無についてみるのに、いずれも成立に争いのない乙第八号証、同第九号証の二、同第一〇号証、同第一六号証の一ないし一二、同第二〇号証の一ないし七、証人西田耕一の証言及び原告本人尋問の結果によると、原告は、国立明石病院退院後、昭和五四年一月、二月には相当日数出勤しながら、その後同年三月一日から六月二七日まで欠勤しているが(そのうち昭和五四年五月一一日から同年六月二〇日までは、原告の勤務する会社の休職命令による。)、退院後直ちに出勤したのは被告関係者の勧めもあつてのことであること、退院後も前記のとおり明舞中央病院等に通院して治療を受けており、昭和五四年八月二日に症状固定と診断されるまでは、なお治療の必要が高かつたこと、仕事をした後に発熱して寝込むなどしたため再び長期に欠勤するようになつたことがそれぞれ認められるから、右事実にてらすと、右原告の休業の相当部分が本件事故と相当因果関係にあることは否定しえない。しかし、反面、前認定の事実によると、この間の通院回数は必ずしも多くないことが明らかであり、また前掲乙第一六号証の一ないし一二及び原告本人尋問の結果によると、この期間は原告の他覚的症状よりも自覚症状が顕著に現われていることが認められるので、これらの点をも考慮すると、右休業による損害のうち八割相当額をもつて本件事故と因果関係のある損害と認めるのが正当である。

そうすると、右相当因果関係にある損害は、金五七一、三二六円(円未満切捨)と算出される(被告の弁済については後に検討する。)。

7  後遺症による逸失利益

成立に争いのない甲第一一号証及び原告本人尋問の結果によると、原告は昭和五四年八月二日頸部捻挫に伴う一定の後遺障害を残して症状固定となつたこと、原告の右後遺障害は、自賠法施行令別表中第一四級一〇号に該当するものであることがそれぞれ認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

そうすると、その労働能力喪失率は五パーセント、その期間は二年とするのが相当であるから、これに伴う逸失利益は次のとおり金二四〇、〇一四円と算出される。

(168.452×12+278.720×2)×0.05×1.8614=240.014(円未満切捨)

8  慰藉料

原告本人尋問の結果によると、原告が本件事故により相当の精神的打撃を受けたことは明らかである。そして、前認定の原告の傷害、治療経過、後遺障害その他本件に現れた諸事情を考慮すると、右損害に対する慰藉料としては、金一、〇〇〇、〇〇〇円をもつて相当と認める。

9  以上の合計額は、金二、〇六八、四四五円である。

五  過失相殺の抗弁について

証人尾崎義宣の証言及び原告本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く。)によると、原告は、昭和五三年九月一日にDXアンテナ株式会社大阪営業所に転勤してきたものであるが、その後本件事故に至る一か月余りの間に、一週間の半分位、右大阪営業所から訴外藤池運転の本件被害車両に同乗して帰宅していたこと本件事故の際も、これと同様にして本件被害車両に同乗していたものであることが認められ、原告本人尋問の結果中には右認定に反する部分もあるが措信せず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

ところで、仮に訴外藤池の運転に過失があつたとしても、訴外藤池と原告との間に身分上又は生活関係上一体をなす関係が存しなければ、原告の損害算定に当たり訴外藤池の過失を斟酌することはできないものと解すべきところ(最高裁判所昭和四二年六月二七日判決民集二一巻六号一五〇七頁、同昭和五一年三月二五日判決民集三〇巻二号一六〇頁、同昭和五六年二月一七日判例時報九九六号六五頁等参照)、本件においては、前認定の事実をもつてしても、なお訴外藤池と原告とが身分上又は生活関係上一体をなす関係にあるとすることはできないというべきであるから、その余の点について判断するまでもなく、被告の過失相殺の抗弁は認められないといわなければならない。

六  弁済の抗弁について

1  抗弁2のうち、(一)(三)(四)(六)(一〇)(治療費、文書料等)についてみると、原告は未払の治療費及び文書料を請求していることが明らかであるから、これに対する弁済とはならず、過失相殺の認められない本件にあつては無意義な主張であつて、主張自体失当である。

2  次に、同(二)(五)(七)(九)(一一)のうち被告が休業損害として原告に支払つたと主張する分についてみるのに、これら主張額の合計は金七二八、四二五円となるところ、いずれも成立に争いのない乙第九号証、同第一九号証の一、二及び原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によると、原告の本件事故後昭和五四年四月分までの休業損害(昭和五三年末の賞与の未払を含む。)の合計額は前記被告の支払額を超えると認められるから、原告が本訴において主張する昭和五四年五月分以降の休業損害に対する弁済とはなりえないことに帰する。

したがつて、この点に関する被告の抗弁も採用できない。

3  次に、同(二)(五)(八)のうち雑費名目の支払の主張についてみるのに、被告の主張額合計金三五〇、〇〇〇円のうち金三〇〇、〇〇〇円については原告もこれを認めているが、金三五〇、〇〇〇円についてはこれを認めるに足る証拠がない。

4  よつて、右金三〇〇、〇〇〇円と当事者間に争いのない自賠責保険金(後遺障害に対する補償)受領額金七五〇、〇〇〇円との合計金一、〇五〇、〇〇〇円を前記原告の損害である金二、〇六八、四四五円から差し引くと、残金は金一、〇一八、四四五円となる。

七  弁護士費用

原告が本件訴訟の追行を弁護士たる代理人に委任し、その報酬の支払を約したことは、弁論の全趣旨によつて明らかである。そして、本件訴訟の難易、認容額その他の事情を考慮すると、金一〇〇、〇〇〇円を被告に負担せしめるのが相当である。

八  結論

以上のとおりであるから、被告は、原告に対し、不法行為による損害賠償として、金一、一一八、四四五円及びそのうち弁護士費用を除く金一、〇一八、四四五円に対しては不法行為の翌日である昭和五三年一〇月一〇日から、弁護士費用金一〇〇、〇〇〇円に対しては本判決確定の日の翌日から、それぞれ支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべく、本訴請求を右の限度で正当として認容し、その余を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、仮執行宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岩井俊)

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